人口減少対策に必要なのは、「手取り」よりも将来不安を減らすことです

2025年の国勢調査速報集計をめぐり、日本の人口減少があらためて大きく報じられています。2025年10月1日時点の総人口は約1億2305万人となり、2020年から309万7千人、2.5%減少しました。この数字を見ると、人口減少はもはや一時的な現象ではなく、社会の前提として考えなければならない段階に入ったのだと感じます。

人口の減少は、たいへん深刻な問題です。このまま出生率の低下が続けば、社会保障、地域経済、労働力、税収など、あらゆる面に影響が出てきます。政府も子育て支援策などを打ち出していますが、それだけで流れを変えられるとは思えません。問題は、支援策が足りないことだけではなく、若い世代が将来を描きにくくなっていることにあるのではないでしょうか。

なぜ結婚や出産をためらう人が増えているのか。なぜ若い世代が将来に希望を持ちにくくなっているのか。そこに向き合わないまま、給付金や一時的な減税を並べても、人口減少の流れは変わらないのではないでしょうか。

最近の政治では、「手取りを増やす」という言葉が支持を集めやすくなっています。物価高が続くなかで、可処分所得が増えることは確かに助かります。生活に余裕のない世帯にとっては、数万円の違いが大きいことも事実です。

ただ、それがそのまま将来への安心につながるわけではありません。

仮に手取りが月に5万円増えたとしても、年金制度は大丈夫なのか。医療や介護の負担はどうなるのか。子どもの教育費を払い続けられるのか。住宅ローンを組んでも生活を維持できるのか。こうした不安が残ったままでは、「それなら結婚しよう」「子どもを持とう」とはなりにくいはずです。

増えた手取りは、消費よりも貯蓄や生活防衛に回る可能性が高いのではないでしょうか。それを「消費が弱い」と責めることはできません。将来の制度や経済の見通しに不安があれば、慎重になるのは当然です。

では、人口減少対策に必要なのは、現在行われているような家計への支援策なのでしょうか。もちろん、物価高のなかで家計を支えることは必要です。しかし、若い世代が本当に求めているのは、「この国で働き、暮らし、家庭を持っても何とかやっていける」と思えるだけの安心感ではないでしょうか。

そのためには、賃金が安定して上がる経済構造をつくらなければなりません。補助金や給付金で一時的に支えるだけではなく、企業が国内で利益を上げ、その利益が内部にため込まれるだけでなく、賃金として労働者に回る仕組みをつくる必要があります。

ここで気になるのが、政府の成長戦略の中身です。AI、半導体、防衛、造船、鉄鋼など、成長分野らしい言葉は並んでいます。しかし、それが本当に国内の雇用や地域経済を広く支える戦略になっているのかは見えにくいままです。

特に、防衛関連や重工業を中心にした成長戦略は、国家としての安全保障政策とは別に、経済政策として慎重に見る必要があります。軍拡につながる産業を「成長戦略」と呼ぶだけでは、国民生活の底上げにはなりません。暮らしを支える産業、地域に仕事を生む産業、内需を強くする産業にどう投資するのか。その具体像こそが問われるべきです。

人口減少の問題は、地方の衰退とも深くつながっています。国勢調査では、人口が増えたのは東京と沖縄だけで、45道府県では人口が減少しました。東京圏の人口は約3699万人で、全国の30.1%を占めています。人が集まる地域と、人が減り続ける地域との差が広がっていることは間違いありません。

ただし、日本の人口減少を「東京に人が吸い込まれているだけ」と見ることはできません。日本全体の人口は約310万人減っている一方で、東京圏の増加はそれを埋めるほど大きなものではありません。問題は、人口そのものが減っていることと、人口の偏りが進んでいることが同時に起きている点にあります。

若い世代が都市部に集まり、地方から人が減っていけば、医療、交通、水道、学校、自治体サービスの維持は難しくなります。地域によっては、人口が減るというより、生活の基盤そのものが細っていく感覚に近いのかもしれません。

ただ、地方の人口減少をすべて東京一極集中の問題とすることは、すこし違うように思います。東京圏への人口集中は大きな問題です。しかし、出生率の低下、将来不安、賃金の伸び悩み、社会保障への不信、地方経済の縮小は、それぞれ絡み合いながらも、分けて考える必要があります。

いま優先して考えるべきなのは、若い世代が将来を設計しにくい社会になっていることではないでしょうか。

結婚や出産は、個人の自由な選択です。国策で押しつけるものではありません。けれども、望んでいても踏み出せない人が増えているのであれば、それは社会の側に問題があるのだと思います。子育て支援を厚くすることも大切ですが、その前に、結婚し、子どもを育てることを現実的に考えられる生活基盤が必要なのです。

「手取りを増やす」という言葉はわかりやすく、支持されやすい言葉です。しかし、それは効果的な人口減少対策になるのでしょうか。むしろ、財源の見通しが曖昧なまま減税や給付を重ねれば、将来の増税や社会保障削減への不安を強めるだけではないでしょうか。

人口減少の流れを変えるために必要なのは、生活の見通しを立て直すことです。安定した賃金、信頼できる社会保障、地域に残れる雇用、過度な自己責任を求めない子育て環境。そうした土台があって初めて、人は将来を考えられるようになります。

必要なのは、人口減少を前提にしながらも、若い世代が未来を諦めなくてすむ社会をつくることです。

その意味で、人口減少対策は少子化対策だけではありません。経済政策であり、社会保障政策であり、地域政策でもあります。そして何より、国民の将来不安を取り除くための政治の責任そのものなのだと思います。