教員は「消えた」のではなく「移動」した――データから読み解く公教育の空洞化と私学のシェア拡大

「教員採用試験の倍率が過去最低を更新」「担任不在のクラスが全国で数千に及ぶ」。

こうしたニュースが報じられるたび、「若者の教職離れ」や「労働環境の問題」が指摘される。

教員不足が深刻な状況にあることは事実だ。しかし、この現象を単に「教職そのものの人気低下」と結論づけることは、実態を正確に捉えているとは言い難い。

統計データを分析すると、教員志望者が減少したという側面以上に、**「教員がより合理的な職場環境を選んで移動している」**という傾向が読み取れるからだ。

彼らは教育の道を諦めたのではなく、「公立学校」という職場が選ばれにくくなっている可能性がある。

これは単純な人手不足というよりも、公立学校が労働市場において競争力を失いつつある現状を示唆している。

データが示す「2つの事実」

ここに、教育行政関係者が注目すべきデータがある。

日本私学教育研究所が公表した、高等学校における教員数の推移(平成28年度〜令和7年度)だ。

この9年間で、日本の高校教育の現場には、対照的な2つの現象が進行している。

1. 公立(全日制・定時制)の減少傾向

まず、公立高校(全日制・定時制)の教員総数は減少傾向にある。

平成28年度の約23万5千人から、令和7年度には約22万1千人へと、1万3千人以上減少した。

少子化による定数減の影響もあるが、採用倍率の低下や定員割れにより、本来配置すべき人員が埋まらない「欠員」が生じていることも要因の一つだ。その結果、残された教員の業務負担が増加し、さらなる離職につながる懸念がある。

2. 私立(通信制)の急速な増加

一方で、教員数が増加している分野がある。それが「通信制高校」だ。

公立校が減少する中、通信制高校の教員総数は平成28年度の4,318人から、令和7年度には7,563人へと増加している。

特筆すべきは、その増加分の多くを**「私立」が占めている**という点だ。

データで見る「公立の減少」と「私立の増加」

公立(全日制)の推移

教員数は1.3万人減少

公立高校教員数の減少グラフ

私立(通信制)の推移

私立教員数は2.2倍に増加

私立通信制教員数の増加グラフ

出典:日本私学教育研究所データより作成

9年間で教員数が倍増するという現象は、少子化が進む日本においては特異な例と言える。

もし「教員という職業」自体が敬遠されているのであれば、私立通信制の教員がこれほど増加することは考えにくい。

このデータは、以下の2点を示唆している。

**「条件が整えば、教職に就きたいと考える人材は存在する」ということ。

そして、「現状の公立学校の環境が、就職先として選ばれにくくなっている」**という可能性だ。

なぜ「公立」は選ばれなくなったのか

労働市場において、求職者は自身の生活やキャリアを考慮して就職先を選択する。

「教える仕事」を辞めたのではなく、公立学校よりも労働条件の整った私立通信制などを選択したと解釈できる。

では、公立学校と私立通信制にはどのような違いがあるのか。主な要因として**「システム」と「法適用」**の違いが挙げられる。

1. 給与体系と労働基準法の適用

公立教員が敬遠される要因の一つとして、「給特法」の存在が指摘される。

「月給の4%を教職調整額として上乗せする代わりに、時間外勤務手当を支給しない」という仕組みにより、長時間労働が常態化しやすい構造となっている。2024年以降、民間企業で賃上げが進む中、この給与体系は若年層にとって不利益が大きいと受け止められやすい。

対して私立(特に企業が運営母体の通信制)は、労働基準法に基づく雇用契約が一般的だ。

時間外労働には割増賃金が発生するため、経営側には業務効率化を進めるインセンティブが働く。その結果、シフト制や裁量労働制などが導入され、労働時間管理がなされやすい環境にある。

2. 業務範囲の明確化と分業

業務内容(ジョブディスクリプション)の違いも影響している。

公立学校の教員は、教科指導に加え、学級経営、進路相談、部活動、事務作業など、多岐にわたる業務を一人で担当することが一般的だ。業務範囲が広いため、特定の業務に注力しづらい側面がある。

一方、私立通信制の多くは、業務のシステム化・分業化を進めている。

「授業は映像配信」「生徒対応は担任」「事務手続きは事務スタッフ」といった形で役割を分担することで、教員は特定の業務に集中しやすくなり、過重労働を防ぐ効果が期待できる。

【比較】なぜ人は「公立」から「私立」へ流れるのか

比較項目 公立学校 (既存モデル) 私立通信制 (成長モデル)
給与・法律 給特法 適用 時間外手当なし(調整額4%のみ)。長時間労働でも人件費が変わらない構造。 労働基準法 適用 時間外手当あり。経営側に「残業を減らす」力学が働く。
働き方 広範な業務担当 授業、担任、部活、事務など、多岐にわたる業務を個人で抱えやすい。 分業化・専門化 授業、担任、事務などで役割分担が進んでいる。
結果 人材流出傾向 倍率低下・欠員発生 人材流入傾向 教員数増加・採用好調

広範な業務を求められる公立と、業務が整理された私立。キャリアとしてどちらが合理的か、判断が分かれる要因となっている。

結論:公教育にも「選ばれるための環境整備」が必要

2026年現在、起きている現象は単なる教育格差ではなく、**「教員人材の偏在」**と言える。

人材が「システム化された私立」を選ぶ傾向が強まっている。

結果として公立では、人員確保が難しくなり、欠員が生じやすい状況が続いている。

その影響を受けるのは、公立学校に通う生徒たちだ。

「教員不足」への対策として採用試験の負担軽減などが議論されているが、根本的な課題は労働環境にあると考えられる。

人材確保のためには、精神論ややりがいだけでなく、労働市場の競争原理を認識し、給特法の見直しや業務のシステム化など、具体的な環境改善への投資が不可欠である。

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